W様より、左京区にお持ちの平屋一戸建ての雨漏り修繕工事と耐震改修工事をご依頼いただきました。
雨漏りでお困りになっておられたところ、弊社ホームページをご覧いただきお問い合わせいただきました。
左京区の山里 自然が豊かな川辺に建つ大きな平屋建てで、私も幼い頃 祖父母に連れられた田舎での夏休みを想い出すそんな風景にあったような屋根を修理させていただきました。
~ここから屋根修繕工事のご紹介です。~
太い柱と大きな梁で支えられた大きくて立派な屋根です。
土と瓦で葺かれた入母屋造りで、築80年は優に超える古民家ですが、大棟は一部が崩れるなど状態は芳しくありませんでした。
所々雨漏りしており、早急に手入れをしなければなりません。
瓦屋根の総葺き替えもご検討いただきましたが、屋根の面積が大きくて費用が掛かる事、そしてこの辺りは風致地区のため、異素材 例えば板金屋根等ローコストの屋根材を使用出来ない事などの理由により、修理で屋根を長く保たすと言う結論に達されました。
主に棟の積み直し(大棟・隅棟)と入母屋部の一面葺き直し、地瓦の調整(ズレ直し、通り調整)をさせていただく事になりました。
葺き替えするこの入母屋面は北側に位置してます。壁熨斗瓦より崩れ落ちた土に大量のコケが着いています。
日当たりが悪く、湿気が多いのでコケが着きやすい環境になっています。
大棟を解体します。状態の悪い瓦は取替えます。
写真① 写真②
写真①
鬼瓦は既存を再利用しました。割れやヒビ等も無く、そのまま使えます。
時を経た鬼瓦は独特の風格を現します。
写真②
熨斗瓦を積むための南蛮漆喰を乗せていきます。
昔は土を乗せ、瓦の面戸(正面より見える部分)に漆喰を塗っていましたが、南蛮漆喰が出だしてからは一回仕上げで済むためこの様な施工が一般的となっております。
熨斗瓦を数段積み、芯部に樹脂桟を取付ます。
樹脂なので腐蝕しません。これが最後に被せる棟瓦の固定ビスの下地となります。
ビスがこの樹脂桟を貫通するため、今後棟瓦はズレたりしません。
そして南蛮漆喰により固まり棟は最終的に一体化します。
棟の積み直し工程が終了しました。
もう雨漏りの心配はありません。
仕上がりにはW様も大満足していただきました。
入母屋部の葺き替え工事に着手します。
入母屋とは、屋根の形状を表した言葉で上の写真の様な形状の呼称で純日本家屋によく見受けられる造りです。
W様邸におきましてはこの部位の傷みが最も激しく、葺き直し(葺き替え)以外に選択の余地はありませんでした。
写真③ 写真④
写真③
瓦と土を除去しますと、木の皮が敷き詰めてありました。
これは現在のルーフィングに相当するもので、瓦屋根の二次防水の役割を果たします。
杉の皮ですが、水を弾き浸透しないため雨漏りを防ぎます。
瓦の屋根とて屋根の内部に雨水が侵入します。
瓦は長い年月をかけ、あのフォルムを完成させました。
屋根の内部に浸水させない様に重なり代の形状などに工夫がされております。
ですが、ズレてしまえば簡単に雨漏りしてしまいます。
現在の様に釘での全枚固定などなされていない土葺きでは、土の劣化でズレが発生してしまいます。
そこで杉皮など用いて雨漏りを防いでいたのです。
写真④
杉皮を撤去するとようやく野地板が現れます。
写真⑤ 写真⑥
写真⑦
写真⑤
野地板に構造用合板を貼り付けます。
写真⑥
改良ゴムアスファルトルーフィングを下葺きします。
写真⑦
瓦桟を打ち付けます。ここが土葺きとの決定的な違いです。
現在は瓦を釘にて固定というのが、標準的な施工となっており、瓦桟は瓦を引っ掛け固定させる役割を担っています。
写真⑧ 写真⑨
写真⑧
軒先には鎌軒先瓦を使用しました。
日本瓦の軒先瓦には沢山の種類があります。
一番よく見掛けますのは万十瓦で、軒先に丸いおでこがついていますね。
あとは一文字瓦で軒先瓦の下端部が一直線に揃います。
京町屋の軒先によく見掛けます。
この鎌軒先瓦も注意して見てればよく町中で見掛けます。
一文字瓦も鎌軒先瓦も施工の際は合端(あいば)と言う工程が必要とされています。
合端とは瓦同士をミリ単位で擦り合わせる工程で、大変手間が掛かります。
瓦は焼き物なので、ねじれが生じます。その瓦同士のねじれによる隙間を消し、美しく軒先を葺き上げる重要な作業です。
写真⑨
今回使用した鎌軒先瓦は柄入りです。
正式名称はツヅ入京花野郎唐草瓦と呼びます。
地瓦を葺き上げ、隅棟を積み 壁に熨斗瓦を積んでいきます。
北面一面の葺き替え工事が完了しました。
合端を施された鎌軒先瓦が整然と並びます。
写真⑩ 写真⑪
写真⑫
写真⑩
屋根より煙突が出ています。
勿論瓦も突き抜けてますので万が一の漏水に備えて鉛の板を敷き込んでおきます。
鉛は濡れると変色はしますが、錆びたり穴が開いたりはしません。
写真⑪
瓦を葺き、切り欠き部にシーリングを充填します。
写真⑫
最後に漆喰を巻いて完成です。
写真⑬ 写真⑭
写真⑬
一部軒先が腐食し、軒天が抜け落ちそうになっておりました。
写真⑭
周辺の瓦を捲り、垂木・軒天・広木舞をやり替えました。
軒天化粧板は杉板を使用しました。
写真⑮ 写真⑯
写真⑮⑯
破風板と呼ばれる部位ですが、腐食が進んでいたためやり替えました。
~ここからは、耐震改修工事のご紹介です。~
before after
before after
まちの匠の知恵を活かした京都型耐震リフォーム支援事業の助成金制度を利用しまして、柱の根継ぎや土壁の修繕・新設工事もご依頼いただきました。
弊社におきましては、屋根の軽量化 屋根の構面強化といった屋根工事でこの助成金制度をご利用される方が多いのですが、この制度には耐震改修工事で使えるメニューが豊富にあります。
特に土壁の修繕・新設工事は費用のご負担が重く、制度を利用する事で「助かったわ」と言っていただける事が多いのです。
土壁は伝統構法で建てられた京町屋などに多く、傷んできたから上から「12mm構造用合板を貼ったらいい」と言う訳にはいきません。建物の免震バランスが崩れるからです。
その部分だけが強固になりすぎる訳です。耐震改修工事の趣旨に反しますので、土壁は土壁のまま修復します。
今年30年度からこの土壁の修繕・新設工事の助成金額が大幅にアップしました。
昨年度の20万円から40~60万円になりました。
この事から京都市が本気で京町屋の保全に取り組んでいる事が伺い知れます。
上の写真ですが、右の柱の下部が腐蝕により欠損しております。
ここから工事の計画が始まりました。
柱の腐蝕部を切り取り、新しい柱を継ぐ事を柱の根継ぎと言います。
しかし柱と壁は一体化しているため、柱だけを入れ替える事は出来ません。
壁の修復工事も必要となってきます。
写真⑰ 写真⑱
写真⑲
写真⑰
既存の土壁を解体します。下地になる木地も撤去します。
写真⑱
柱一本の状態にします。勿論、近くで油圧ジャッキを用いて梁を支え柱を浮かしてしまいます。
写真⑲
柱の腐蝕部を切り取ります。切り取る長さは目視・触診・打音調査など念入りに行います。
柱の内部がシロアリにより食い荒らされている可能性もあるからです。
従ってどこで根継ぎをするかはこの時点にならないと判断が出来ません。
時には柱丸々一本替える事もあります。
写真⑳ 写真㉑
写真㉒ 写真㉓
写真⑳
柱を継ぎます。水に強い桧材を使用します。
継ぎ方は伝統的な手法を用いて、更にコーチボルトで緊結します。
写真㉑
木舞を仕込みます。いわゆる貫板です。
写真㉒
竹を編んで荒壁下地を造ります。
現在この竹を編める職人さんが減ってきてます。伝統的な土壁造りに必要不可欠な工程 なので後継者の育成が急務と言えます。
写真㉓
土壁の土台となる荒壁を塗ります。竹の職人さん同様この荒壁や中塗りが出来る職人さんも減ってきてるそうです。
そしてここからが長丁場となります。この荒壁が完全に乾かないと次の中塗りが出来ません。
季節によりますが、冬場は荒壁付けから仕上げまで数ヶ月以上掛かります。
写真㉔ 写真㉕
写真㉔
荒壁が乾ききって表面にひび割れが出てます。
この上にもう一層土壁を付けます。中塗りの工程です。
写真㉕
仕上げは漆喰を塗りました。
左官屋さんの腕の見せ所です。綺麗に仕上がりました。
今回の工事で、柱の根継ぎは2ヶ所行いました。
ここも腐蝕が激しく、柱のみならず敷居も半分腐蝕して欠損しております。
写真㉖ 写真㉗
写真㉘
写真㉖㉗
こちらは金輪継ぎと呼ばれる手法で収めました。
精密且つ強固な継ぎ方でベテラン大工の成せる技です。
写真㉘
敷居も継いで修復します。
木舞 竹編み 荒壁付け
写真㉙ 写真㉚
写真㉙
柱の根元に銅板を巻きました。
水が掛かる事による腐蝕防止のため保護を目的としてますが、ちょっとしたアクセントになります。
写真㉚
床を復旧します。補修した敷居はキシラデコールを塗布しました。
優れた防腐防虫塗料です。
工事前 木舞 竹編み
荒壁付け
中塗り 漆喰仕上げ
上の写真5枚は工事の一連の流れで並べてみました。
費用も手間も時間も掛かる土壁造りですが、完成の喜びもひとしおです。
今後もお任せいただけるならこの様な仕事に関わっていきたいと思います。
最後にW様 屋根工事に耐震工事と全てお任せいただきまして誠にありがとうございました。